東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2655号 判決
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〔判決理由〕一 事故の発生
請求原因一の事実は当事者間に争がない。
二 原告伊秀の受傷
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
原告伊秀は、事故時六八才の書道家であるが、当時概ね健康体であつたところ、事故により請求原因二1のような傷害を蒙り、右受傷により必臓機能にも幾分の影響を受けた。
右治療のため、請求原因二2のとおり各入院し、退院後現在まで医師の指示に基づいて服薬等を続けている。
事故後約一年間は、請求原因二3のような症状に悩み、制作にもかなりの支障を来たしたが、その後は、制作に根をつめるなど特別の場合に多少の痛みを感ずる程度にまで軽快した。
三 原告伊秀の職業等と事故の影響
前記各事実、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
原告伊秀は、書道家として、かねてから、制作、著述、後進の指導等概ね請求原因三のような活動をしてきたものである。
同原告の書道に関する諸事業を管理するため、同原告は株式会社青蘭社を設立し、自ら代表取締役の地位にあるが、経済的側面からみれば、同原告の書道に関するあらゆる業績、活動は同社がこれを管理して、その収支一切は同社に帰属し、同原告には同会社が月額四〇万円の報酬を支払うに尽きるものとなつている。
書道家は、七〇才前後がなおその充実期ということができ、心身が健康な限り、通常制作等の活動におとろえを来たすものではない。したがつて、原告伊秀も事故にあわなければ、当分の間従前同様の制作等の活動を続けることができたものと推認することができる。
原告伊秀は、事故による前記受傷のため約一年間満足な制作ができず、また約半年間は書道教室への出講、諸著作が不可能な状態であつた。そのため、月刊紙「学書」は約一年休刊し、読売新書の書道講座はなお刊行が延期されている。そして、右教室の門下生は一時かなり減少した。
そのため、株式会社青蘭社の諸月謝、出版収入等にかなりの影響があり一時同社は経営困難というべき状態に陥り、約半年間同原告に支払うべき前記金員の支払をしなかつた。
四 原告伊秀の損害
合計一三九万一八八〇円
(一) 収入減少(請求原因四(一)1)
六〇万円
前記認定事実によれば、原告伊秀の本件受傷による制作、出講等の不能のために、同原告の個人会社ともいうべき株式会社青蘭社の収益に多大の影響を受け、かつ、同原告の個人所得も、多大の減少を来たし、その額は六〇万円を下らないことが明らかである。<中略>
五 原告礼子の損害
(一) 収入減 七万二〇〇〇円
前記二、三の事実、原告両名本人の各供述によれば、原告礼子は原告伊秀の妻であつて、株式会社青蘭社の役員として月額四〇万円の報酬を得ていたものであるが、原告伊秀の入院期間を通じて病院に起居して同原告の看護につとめ、そのため、右会社に就業せず、約半年間右金員の支払を受けなかつたことが認められる。ところで、前記金員のすべてが原告礼子の就業の対価と認めることができないにしても、そのうちかなりの部分がこれに該当するとみるのが相当である。そして、前記病状からみて、入院期間中附添看護が必要であつたことは明らかであり、右期間職業看護者に支払うべき諸経費は、七万二〇〇〇円とみるのが相当である。したがつて、原告礼子の収入減のうち、右相当額に限つて、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。 (高山晨)